先日、息子を連れて鈴鹿サーキットに遊びに行ったときのことです。
車で走っていると「浪花でおます」という店名のお好み焼き屋さんの看板が目に飛び込んできました。
私が「大阪出身の人がやってるんやろうなあ」と話題を振ると、息子から「せやろなあ。でも「おます」って何よ。」と思わぬ問いが返ってきました。
そうか、今や大阪人でも若い子たちは「おます」なんて言葉、知らないのか。
まあ、それもそのはず。
私自身でさえ10年以上も前に亡くなった、父方の叔母以外で「おます」なんて言葉を使っていた人、思いつきませんから。
そこで今回は大阪以外にお住まいの方、並びに今どきの大阪の若者のために消えつつある、大阪弁「おます」の意味等についてお伝えしてみたいと思います。
いつもどおり、例文も挙げて解説していきますので興味のある方は是非とも、お付き合い下さい。
「おます」っていう言葉は聞いたことないなあ。それにしても「浪花でおます」って、すごくインパクトのある店名だね。
是非、一度、行ってみたい。
おますって、どういう意味?
大阪弁「おます」の意味は次のとおりです。
~です(助動詞)
(物などが)あります
(人が)います
つまり、「である」「ある」「いる」などの丁寧語ということになります。
ただし、単純に丁寧語というだけでなく、そこにさらに柔らかい含みを持たせるイメージ。
「そうですね」
「そうでおますな」
こうやって標準語での表現と並べて見ると、音などからその微妙なニュアンスの違いがなんとなく、おわかり頂けるのではないでしょうか。
聞くところによると「おます」は、そもそも大阪の遊女の使う言葉だったらしいです。
その遊女たちの遊びに来る、だんはん方に対する、へり下った気持ち、特別な配慮、遠慮みたいなものが、こういった柔らかい言葉を生み出したのかもしれませんね。
ちなみに今、私たちが一般的に大阪弁だと思い込んでいるものの大部分は、もともと大阪の河内地方で使われていた河内弁と呼ばれるものなんだって。
本来の大阪弁はお商売人さんたちが使うに相応しい、ものすごく柔らかい言葉だったそうよ。
おますを使った例文
それでは「おます」の意味をより正確に理解できるよう、ここで「おます」を使った例文を見てみましょう。
標準語訳もつけていますので、合わせてご確認下さい。
あんさんは天満の出やて?
(標準語訳:あなたは天満のご出身なんですって?)
へえ、そうでおます。
(標準語訳:はい、そうです。)
「~です」の意味での使用事例。
ちなみに大阪人は個人情報という概念が他県民に比べて、ほとんどない。
これで、あんさんの腹づもりは、よう、わかった。
(標準語訳:これで、あなたの腹づもりは、よく、わかった。)
いやいや、そんなつもりや、おまへんのや。
(標準語訳:いえいえ、そんなつもりではないんです。)
「~です」の否定形での使用事例。
この否定形が今でも最も使われる頻度が高いかも。
80歳以上のなにわマダムの会話に熱心に耳を傾けると、そのうち聞けるかと思います。
まだ、バッテラ、おますか?
(標準語訳:まだ、バッテラ、ありますか?)
へいへい、おます、おます。
(標準語訳:はいはい、あります、あります。)
「あります」の意味での使用事例。
さすがに今となっては、会話の両当事者が「おます」を使う場面には、ちょっと、遭遇できないかも。
お子さんは?
(標準語訳:)
息子が2人、おます。
(標準語訳:)
「います」の意味での使用事例。
ちなみに「おまんねん」と文末を「ねん」にすることもある。
さらに短く「おま」とも。
なんとなく意味はわかったけど、さすがに使うのはムリそうだなあ。
まあ、使う必要もないと思うけど。
おますはどこの方言?
本記事のタイトルからもおわかり頂けるとおり「おます」というのは大阪弁、すなわち大阪の方言ということになります。
ただし、一言に大阪弁といっても、大阪はもともと、摂津、河内、和泉の3つの国があったところで、「おます」はそのうち摂津の国、さらにその中でも現大阪市の中心部で主に使われてきた言葉らしいです。
ですので、より正確に表現するならば大阪市中心部の方言ということになると思います。
なお、言葉の点で大阪と被ることが多い、お隣、京都では「おます」という言葉は使わず、その代わりに「おす」という言葉を使います。
たとえば大阪なら「そうでおますな」と返事することになるところを京都では「そうでおすな」と返事をするということです。
京都では「おす」という言葉を、たとえば老舗の女将さんとか、舞妓さん、芸妓さんさんなんかが、まだ普通に使っていますので、こちらの方が実際に聞いたことがあるという方が多いかもしれませんね。
ちなみに京都弁を真似るときの定番「そうどす」は「そうでおす」の縮まったものだそうですよ。
「どす」と言えば「今くるよ」師匠。
最近、あまりテレビで見かけないけど、お元気にされているのかしら。
まとめ
- 大阪弁「おます」の意味は
①~です(助動詞)
②(物などが)あります
③(人が)います - 「おます」は大阪の中でも大阪市の中心部で使われた方言である。
昨晩、この記事を書きかけて床についたせいか、本記事、冒頭で触れた今は亡き、父方の叔母の夢を見ました。
私が父と叔母の家を訪ねるのですが、仏壇に手を合わせてすぐに帰ろうとする父と私を叔母が「すし、おますで。」とか「栗まんじゅう、おますで。」とか言って、なにしろ食い気で引き留めようとするという夢です。
私が子供の頃、叔母の家を訪ねた時には毎度、繰り返された展開。
その風景の中でたった一つ違ったことと言えば、私が今のすっかりおっさんの姿だったことぐらいでしょうか。
マサエのおばちゃん、あの世でも、うちの親父相手に「おます」「おます」言うてるんやろか。
そうやったら、楽しそうで、ちょっと、ええんですけどね。
おそらく、あと20年もすれば普通に「おます」という表現を使う大阪人はいなくなってしまうことでしょう。
それでも大阪人の記憶の中に、この、なんとなく柔らかく、温かい言葉の響きが残ってくれたらええんですけどね。
ムリかなあ。
やっぱり、河内弁の方が浸食力あるからね。(笑)
以上、今回は大阪弁「おます」の意味等についてお伝えしました。
「おます」は消えてしまうには惜しい、すごく心地のいい響きのある言葉だと思う。
残ってくれたら、いいのにね。
※当サイトでは「おます」以外にも関西弁を中心に様々な言葉の意味について紹介しています。興味のある方は合わせてチェックしてみて下さい。