つい先日、嫁さんとテレビを見ているときのことです。
番組に出演していたある女性タレントさんが器用に左手でお箸を使っている姿を見て、私が思わず「あら、この子、ぎっちょなんやなあ」と口にしたところ、嫁さんに鬼のような形相で「今、ぎっちょって言うたらあかんねんで!」ときつく注意されました。

「えっ、ぎっちょってなんで言うたらあかんのん?」と聞き返すと「ぎっちょって差別用語なんやで。今、テレビ、出てる人たちも誰もぎっちょなんて言うてへんやろ。」とのこと。

ぎっちょが差別用語?
そんな話、聞いたことないで。

っていうか、子供のときなんか、むしろ、ぎっちょに憧れて左手でお箸を持って弁当を食べようとしてたぐらいやし。
それやのに今さらぎっちょが差別用語って言われても、どうにも納得がいきません。

そこで、今回その真偽のほどを確かめるべく、ぎっちょという言葉について調べてみることにしました。
その意味はもちろんのこと、どこの方言で語源は何なのかということまで、徹底的に調べていくつもりですので興味のある方は是非、最後までお付き合い下さい。

まことくんまことくん

うーん、僕もぎっちょっていう言葉に特に悪いイメージなんてないけどなあ。
本当に差別用語なんだろうか?

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ぎっちょの意味は?

ぎっちょの最もポピュラーな意味は「左利き」ということになります。
まあ、この意味については、おそらく、ほとんどの方がご存知のことでしょう。

ぎっちょのポーズ
ぎっちょのポーズ

また、大阪の一部の地域では、たとえば犬の糞などの汚いものを触ったり、踏んだりした人の不浄・不潔な状態の伝染を免れるためのポーズ付きのおまじないのようなものとして「ぎっちょ」という言葉が使われます。
東京の人がよくいう「えんがちょ」とほぼ同じ意味ですね。

と、ここまで書いてハッとしました。
ひょっとして、この使い方のせいで「ぎっちょ」は差別用語と認定されてしまったのではないでしょうか?

ぎっちょなどと言って汚いものを触ったり、踏んだりした人をバイ菌扱いするなんて、誰がどう見たって単なるイジメですもんね。
差別用語扱いされても仕方がないのかも。

ん?
でもよく考えたら「えんがちょ」って今でも普通にテレビのバラエティ番組とかで使ってるよね。
だとしたら、このことが理由で差別用語になっているわけではないのか?

うーん、よくわからない。
さらに考察を続けてみましょう。

あっこちゃんあっこちゃん

ちなみに今の中高年男性はぎっちょに対する憧れが強い人が多いらしいよ。
その理由の一つ目は、彼らが子供の頃にはやったスポ根(スポーツ根性ものの略)マンガにぎっちょの主人公が多かったから。
理由の二つ目は同じく彼らが子供の頃にはやった歌に「私の彼は左きき」や「サウスポー」などのぎっちょを扱ったものが多かったからなんだって。
なんか男の人って世代を問わず単純だよね。

ぎっちょはどこの方言?語源は?

「左利き」という意味で使う「ぎっちょ」については特にどこの方言ということはなく、全国で広く使われているようです。
ですので、一応、標準語ということになるのでしょう。

一方、汚いものを触ったり、踏んだりした人の不浄・不潔な状態の伝染を免れるためのおまじないのようなものとしての「ぎっちょ」は大阪や京都、兵庫の一部の地域でしか使われていませんので、その地域の方言ということになります。

次にぎっちょの語源についてです。
ぎっちょの語源候補として有力なものには次の2つのものがあります。

ぎっちょの語源候補①:左器用(ひだりきよう)説

左利きの人は右利きの人に比べて当然、左手で器用に用事をこなします。
このことから「左器用」→「左ぎっちょ」と転化したという説です。

ぎっちょの語源候補②:左毬杖(ひだりぎっちょう)説

打球楽(たぎゅうらく)という舞楽では、本来、毬杖(ぎっちょう)という木製の杖を右手に持って舞うのですが、ある時、舞手がうっかりと、それを自身の利き腕である左手に持って舞ってしまったことから、左毬杖(ひだりぎっちょう)という言葉が生まれたとする説です。
なお、毬杖とは木製の杖(ホッケーのスティックようなもの)で木製の鞠を相手陣地に打ち込むという宮廷発祥の遊び、もしくは、その際に使う木製の杖のことを言います。

これら以外にも三毬杖(さぎちょう・後に当て字で左義長とも)説や左几帳(ひだりきちょう・几帳とは宮廷等で用いられた布製の間仕切りや目隠しのこと)説などもありますが、前者はそもそも左が関係なかったわけですし、後者も几帳に右も左もないはずなので、かなり弱いかと思います。

まあ、①か②のいずれかなんじゃないですかね。
あくまで普通のおっさんの勘のレベルの話になりますが。

あっこちゃんあっこちゃん

三毬杖というのは宮中等で行われた悪いものを払う儀式のことなんだって。
いわゆる「どんど焼き」というのは、この三毬杖が一般市民にも広がって、できた行事らしいよ。

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ぎっちょは結局、差別用語なのか?

さて、それでは、いよいよ、本考察をしてみるきっかけとなった「ぎっちょは差別用語なのか」という問題について検討していきたいと思います。

意味の点に関しては、最もポピュラーな左利きという意味はともかく、汚いものを触ったり、踏んだりした人の不浄・不潔な状態の伝染を免れるためのおまじないという意味については差別的と捉えられる可能性がありそうです。
しかし、この点が問題なのだとすると「えんがちょ」が差別用語として特に問題視されていないことと、整合性がとれそうにありません。

次に語源の点に関してですが、上記に挙げたどの説をとってみても、もともと差別的な意味合いがあったとは考えにくい。
たしかに左毬杖説などは他人の失敗をいじっているわけですから、これが語源だとすると左利きの人は、あまりいい気はしないかもしれませんが、差別的とまでは言えませんよね。

だとすると、何か他に差別的とされる根拠があるのでしょうか。
で、私なりに色々と調べたり、考えたりしてみた結果、以下の2つのようなことが可能性として考えられるんじゃないかと思い至りました。

①左手は不浄のものとされたから

古来、イスラム教やヒンドゥー教では左手は不浄のものとされ、食事をする際などは必ず、右手のみを使うものとされてきたそうです。
さらにこの考え方は仏教の教えの中にも伝播し、同じく左手は不浄のものとされました
(数珠を左手に持つこととされるのは、不浄の左手を清めるためなんだとか)

その不浄のものとされた左手で食事をはじめ、あらゆる生活行為を行う者がいたとしたら、信仰心の厚い人々の中には「こいつ、左手、使ってるよ。ヤバい奴じゃん」となった人がいたとしても、不思議ではないですよね。
このような経緯で「ぎっちょ」という言葉に差別的な意味が込められることになったのかもしれません。

②人と異なることを忌み嫌う文化的風土があったから。

みなさんもよくご存知のとおり、わが国には大昔から、人と異なることを忌み嫌うというか、許さない文化的風土がありました
今でこそ、個性の時代だとか、どうとか言うようになりましたが、それでも時と場合によっては、ものすごい同調圧力がかかることがある。
たぶん、そういう民族なんですね。

まして、昔は他の人と違うことを言ったり、やったりすると、それだけで差別を受けるような状況になりやすかった。
そういう背景を踏まえて、みんなが右手を使って生活をしている中で、一人だけ、左手を使って生活をしている人がいる場面を想像してみて下さい。

たぶん「なんだよ、こいつ左手、使ってるよ」から始まり、さらにそれがエスカレートして左利きの人を差別したり侮蔑したりするようなことも当然、あったんじゃないかと思われます。
このような経緯で「ぎっちょ」という言葉に差別的な意味が込められるようになったのかもしれません。

以上、2つの可能性について、指摘してみたわけですが、個人的には、これらの可能性を考えてもなお、「ぎっちょ」が本当に差別用語と言えるのか明確な判断がつかないところがあります。

ただまあ、今回、色々と調べてみた中で分かったことなのですが、どうやら年配の左利きの方の中には「ぎっちょ」と言われることに強い不快感を感じる方が少なからず、いるようです。
ひょっとすると子供の頃、近所の悪ガキなどに「ぎっちょ、ぎっちょ」などと言ってはやし立てられたようなことが苦い思い出として残っているのかもしれません。

まあ、差別用語かどうかの結論に関わらず、不快に感じる人がいる言葉を無理に使う必要もありません。
このようなことで、少なくとも私自身は今後、「ぎっちょ」という言葉を使うことを控えたいと思います。

まことくんまことくん

どうやら、「ぎっちょ」という言葉は、できるだけ使わない方が良さそう。
まあ、左利きって言えばいいだけだしね。
僕も気をつけようっと。

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まとめ

  • 「ぎっちょ」の意味は「左利き」。
    また、大阪や京都、兵庫の一部の地域では汚いものを触ったり、踏んだりした人の不浄・不潔な状態の伝染を免れるためのおまじないような意味で使われることもある。
  • 「左利き」という意味での「ぎっちょ」は全国で使われており、特定の地方の方言ではない
    これに対して「汚いものを触ったり、踏んだりした人の不浄・不潔な状態の伝染を免れるためのおまじない」の意味でのぎっちょは大阪や京都、兵庫の一部の地域の方言ということになる。
  • ぎっちょの語源候補の有力なものとしては左器用(ひだりきよう)説左毬杖(ひだりぎっちょう)説がある。
  • ぎっちょが差別用語と言えるかどうかについては明確な判断はできないが、事実として年配の左利きの方の中には「ぎっちょ」という言葉に対して不快感を感じる人がいるということなので、使用は避ける方が無難である。

憧れに近い気持ちを抱きつつ、使っていた「ぎっちょ」という言葉が左利きの人を不快にさせていた可能性があるなんて、ちょっとショックです。
過去に嫌な顔をする人に遭遇したことはありませんが、内心、不快に感じてたのかも。

だとしたら本当に申し訳ないなあ。
益々、自分が使う言葉に責任を持たないといけないと強く感じる今日、この頃です。

以上、「ぎっちょ」という言葉の意味等についてお伝え致しました。

あっこちゃんあっこちゃん

今後は左利きがサウスポーに統一だね。

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