私は仕事で関西以外の方とお話させてもらうことが多いのですが、その会話の中で、驚かれるというか、キョトンとされることが多いのが関西弁独特の「いわす」という言葉の使い方です。
先日もあるお客さん相手に
「いや、この間、息子があんまり勝手なことばっかり言うもんやから、一回、いわたしたろうと思って、つかみ合いになったんですが、もう息子も高校生で力も強いでしょ。
逆にこっちが肩やら腕やら腰やら、いわしてしもて。」
などと愚痴ったら
「いやいや、ちょっと意味がよくわからないです。もう一回、言ってもらえますか?」
と苦笑されてしまいました。
まあ、言われてみれば、もっともな話。
これだけ、言うとか、いわすとか、いう言葉を一つの文章の中で違う意味で混ぜて使ってしまったら、関西以外の人は訳がわからなくなってしまいますよね。
そこで今回は関西弁における「いわす」という言葉の意味を関西以外の人にもご理解頂けるよう、詳しく解説していきたいと思います。
さらに、その使い方やどこの方言であるかなどについても、紹介していきますので、関西弁「いわす」について知りたいという方は是非ともご覧になって下さい。
それではいざ本題に入って参ります!
関西の人って、自分の使っている言葉が方言だっていうことが、わかっていないことが、すごく多いんだよね。
そうそう。
それで方言じゃないの?って指摘すると、ものすごく驚くのよね。
中には「もともとは関西が中心やから方言ちゃうし」みたいない訳のわからない反論をする人もいたり。
まあ、それでも、なんとなく憎めない感じがするのが関西人なんだけどね。
いわすの意味は?
関西弁における「いわす」の意味は次の2つです。
①(体の一部を)痛める・悪くする
②(相手を)痛めつける・やっつける
要するに自分の体を痛めてしまうのも、相手の体を痛めつけるのも同じ「いわす」という言葉で表現するということですね。
うーん、こうしてあらためて考えて見ると、これは確かに慣れない限り、かなり、ややこしく感じてしまうかも。
まあ、とりあえずは、あまり難しく考えず、関西では「いわす」を痛める・痛めつける、二通りの意味で使うのだということを知っておいて下さい。
では、ここで比較検討するために標準語での「いわす」の意味を確認しておきたいと思います。
いわす(言わす)
引用元:weblio辞書(デジタル大辞泉)
1 言うように仕向ける。しゃべらせる。
2 言うことを許す。自由に話させる。
3 音を立てる。
こうして両者を比較してみると、意味的な共通項はほぼ、なさそうですね。
なお、関西弁では標準語の意味でも「いわす」という言葉を結構よく使います。
そのため、関西人が「いわす」という言葉を使っている時には、関西弁での意味で使っているのか、標準語での意味で使っているのかを判別する必要があり、このことがさらに関西人以外の方にとっての関西人の使う「いわす」の意味の把握を難しくしている部分があります。
とまあ、ちょっと、深刻なことのように書いてしまいましたが、関西人は基本的に日常会話であまり大したことは話ません。
ですので「別に解釈を間違ったところで特に問題ない」というぐらいのつもりで、気軽に関西人との会話を楽しんで頂ければと思います。
標準語の意味での「いわす」もよく使うのか。
関西弁での「いわす」と混ぜて使われると、かなり混乱してしまいそう。
関西弁いわすの使い方を例文でマスター!
それでは関西弁の意味での「いわす」という言葉の具体的な使い方を例文を挙げて確認してみましょう。
全例文に標準語訳を付けていますので参考になさって下さい。
今、腰、いわしてましてね。
(標準語訳:今、腰を痛めていましてね。)
腰、膝、手首など、様々な体の部位(特に関節を含む部位)を痛めた際に「いわす」という言葉を使います。
松坂も、めちゃめちゃ、ええピッチャーやったんやけど、肩いわしてから後は、どないもならんかったわなあ。
(標準語訳:松坂もすごく、いいピッチャーだったんだけど、肩を故障してから後は、どうにもならなかったよなあ。)
「肩をいわす」という表現はスポーツ選手、特に野球のピッチャーに関してよく使われる表現です。
あれも今、体いわして入院しとんねん。
(標準語訳:あいつも、今、体壊して入院してるよ。)
ええ、ホンマかいな、どこいわしたん?
(標準語訳:ええ、本当に?どこが悪いの?)
いや、よう知らんねんけど、たぶん、肝臓いわしたんちゃうか。あれも年がら年中、飲んでるもん。
(標準語訳:いや、よく知らないんだけど、たぶん、肝臓を悪くしたんじゃないかな。あいつも年がら年中、飲んでるからね。)
「体をいわす」という表現の場合、ケガではなく、病気をしていることを意味することになります。
また、内臓の部位の中では、胃や肝臓について「いわす」という表現を使うことが多いです。
あんまり、なめたこと言うとったら、いわすぞ。
(標準語訳:あまり、なめたことを言ってたら、痛い目に遭わせるぞ。)
関西弁での売り言葉の定型。
吉本新喜劇などでは、よく耳にしますが、大阪でも普通に生活している限りは、そんなに聞くことのないセリフです。
※関西弁で痛い目に合わせるという意味の言葉としては「いわす」の他に「いてまう」という言葉もあります。「いてまう」という言葉の詳細については、こちらの記事をご確認下さい。
「いてまうぞ」の意味等について関西弁歴50年の大阪のおとんがコッテリ解説しています。他県民の方にもすんなりご理解頂けるよう、例文を用いて解説していますので、興味のある方は是非ともご覧になって下さい。
このガキ、いっぺん、いわしたろか。
(標準語訳:このガキ、一度、痛い目に遭わせてやろうか。)
こちらも④同様、関西弁での売り言葉の定型。
いわせるもんやったら、いわしてみんかい。
(標準語訳:痛い目に遭わせることができるのなら、痛い目に遭わせてみろよ。)
④⑤のような言葉に対する買い言葉。
こうなると、いよいよ、どつき合い(殴り合い)になる可能性大。
すごく、よくわかったわ。
これで私も関西弁の意味での「いわす」を使いこなせそう。
※「いわす」を含めた関西弁の怖い言葉をこちらの記事でまとめています。興味のある方は合わせてチェックしてみて下さい。
関西弁の悪口一覧を掲載しています。関西弁歴半世紀の大阪人が定番の悪口からややマニアックな悪口まで、思いつく限り、徹底的に紹介していますので興味のある方は是非ともご覧になって下さい。
次に関西人が標準語の意味で「いわす」という言葉を使う場合の例文も紹介しておきます。
自分もよう、浮気がばれて、嫁さんに家から放り出されてるもんなあ。
(標準語訳:自分もよく、浮気がばれて、嫁さんに家から放り出されてるもんね。)
そうそう、わしも浮気がばれて、よう嫁さんに家から放り出されてますねん。って何をいわせんねん!そんなことあるかい。そもそも浮気なんかしてへんがな。
(標準語訳:そうそう、私も浮気がばれて、よく嫁さんに家から放り出されているんですよ。って、何を言わせるんですか!そんなことないですよ。そもそも浮気なんてしてませんから。)
標準語の意味1「言うように仕向ける」の使用事例。
いわゆるノリ突っ込みの際などによく使われる。
ちなみに関西人は小学校高学年ぐらいから、普段の会話でノリ突っ込みを行います。
「さっきから、聞いとったら、言いたい放題やなあ。ほな、私かて一言、いわせてもらうで。」
(標準語訳:さっきから聞いてたら、言いたい放題だね。じゃあ、私も一言、言わせてもらうよ。)
標準語の意味2「言うことを許す」の使用事例。
なお、関西人が一言、いわせてもらうと言って、本当に一言で済むことは稀。
「奥歯、ガタガタ、いわせたろか。」
(標準語訳:奥歯をガタガタ、音を立てさせてやろうか。)
標準語の意味3「音を立てる」の使用事例。
私自身、あらためて考えてみて、「奥歯、ガタガタいわせる」の「いわせる(いわす)」は標準語の用法なんだと初めて、気づきました。
ちなみに関西人も本気で「奥歯、ガタガタいわせる」という言葉を使うことは、ほとんどありません。
大抵、親しい者同士で、ちょっとふざけて使う感じです。
標準語の意味で「いわす」を使う時でも使い方は、かなり独特だね。
さすがは関西人。
いわすって、もともと、どこの方言?語源は?
関西弁の「いわす」は今や近畿圏はもとより、四国、中国地方の一部、地域でも使われる言葉ですが、もともとはどこの方言だったのでしょうか?
この点については諸説ありますが、やはり、他の多くの関西弁同様、もともとは京都・大阪あたりで使われ出した方言のようです。
あらためて言うまでもない話ではありますが、両都市は昔から人が多く集まり、言語文化も発展しやすい環境にありましたから、多くの言葉や表現が生まれやすかったのでしょう。
なお、「いわす」の語源については「参ったといわす」であるとする説が有力なようです。
語源から考えても、もともとは単に暴力で屈服させるというより、知恵や権謀術数、権力などを用いて降参させてしまうというような意味があったのでしょうが、そういった含みが時間の経過と共に薄れて単に暴力で屈服させる≒痛めつける、というような意味になったのかと。
まあ、意味の変容の点については素人のあて推量に過ぎませんので、あくまで参考までに止めて下さい。
「いわす」という言葉の使い手が商人などから、庶民に移り変わる中で、単に暴力で屈服させる≒痛めつけるという意味が前面に押し出されることになったのかも。
まとめ
- 関西弁における「いわす」の意味は
①(体の一部を)痛める・悪くする
②(相手を)痛めつける・やっつける
である。 - 関西弁の「いわす」はもともと、京都、大阪の方言で語源は「参ったといわす」であるとする説が有力。
今回、関西弁の「いわす」という言葉の意味等についてお伝えしてきたわけですが、スッキリとご理解頂けましたでしょうか?
特に①の意味での「いわす」という言葉はほとんどの関西人が使う言葉なので、是非とも知っておいて下さい。
私自身も40歳を過ぎたあたりから、やたらと「~をいわしましてね」みたいないことを、よく言うようになった気がします。
歳を重ねるのは仕方のないことですが、できれば、どこも悪くすることなく、元気で過ごしたいものです。
あなたも体のあちこちを「いわす」ことがないよう、しっかりと気を付けて、日々、楽しくお過ごしください。
それでは、最後までお付き合い頂き、誠にありがとうございました。
ほんま、あちこち、いわさんようにね。
※当サイトでは「いわす」以外にも様々な関西弁の意味等についてお伝えしています。関西弁に興味のある方は合わせてチェックしてみて下さい。